ジョージ・W・ブッシュ政権を思い出すと、2001年9月11日の同時多発テロとイラク戦争が最初に浮かびます。
2001年1月に発足した時点の政権は、大型減税、教育改革、医療、エネルギー、軍の再編などを進めるチームとして始まりました。発足から8か月後の9.11が、その仕事を大きく変えます。
元統合参謀本部議長のコリン・パウエル、過去にも国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルド、父ブッシュ政権で国防長官だったディック・チェイニーなど、安全保障経験の厚い人物が並ぶ一方、州知事、企業経営者、教育行政の実務家も多く入りました。
その後、国土安全保障省という新しい省が生まれ、司法省とFBIはテロ対策へ比重を移し、イラク戦争の長期化で国防長官が交代します。政権末期には住宅市場の崩壊と金融危機が起こり、ゴールドマン・サックス出身のヘンリー・ポールソン財務長官が金融システム安定化の中心に立ちました。
8年間を人物から追うと、危機に合わせて人と組織を入れ替えていった過程が分かります。
現代アメリカ政権シリーズ:ジョージ・W・ブッシュ(現在の記事) → バラク・オバマ → 第1次トランプ → バイデン → 第2次トランプ。全体の流れは歴代アメリカ大統領一覧で確認できます。
まず確認|アメリカの「Cabinet」は日本の内閣と少し違う
米国大統領のCabinetは、大統領に助言する政権中枢です。
ブッシュ政権の公式説明では、副大統領と15行政省の長が基本メンバーでした。国務長官、国防長官、財務長官などのSecretaryに加え、司法省のトップだけはAttorney Generalと呼ばれます。
ブッシュ政権では、EPA長官、行政管理予算局(OMB)局長、国家薬物取締政策局長、通商代表、首席補佐官などにも閣僚級の扱いが与えられた時期があります。
人物編では、大統領・副大統領と、8年間に15行政省の長を務めた歴代担当者36人を中心に追います。さらに、首席補佐官、国家安全保障担当大統領補佐官、CIA長官、FBI長官、政治戦略を担った上級顧問も加えます。
8年間の主要ポスト一覧
| ポスト | 2001年の担当 | 後任・第2期 |
|---|---|---|
| 大統領 | ジョージ・W・ブッシュ | 8年間在任 |
| 副大統領 | ディック・チェイニー | 8年間在任 |
| 国務長官 | コリン・パウエル | コンドリーザ・ライス |
| 国防長官 | ドナルド・ラムズフェルド | ロバート・ゲーツ |
| 財務長官 | ポール・オニール | ジョン・スノー → ヘンリー・ポールソン |
| 司法長官 | ジョン・アシュクロフト | アルベルト・ゴンザレス → マイケル・ムケイジー |
| 国土安全保障長官 | ― | トム・リッジ → マイケル・チャートフ |
| 内務長官 | ゲイル・ノートン | ダーク・ケンプソーン |
| 農務長官 | アン・ベネマン | マイク・ジョハンズ → エド・シェーファー |
| 商務長官 | ドナルド・エバンス | カルロス・グティエレス |
| 労働長官 | イレーン・チャオ | 8年間在任 |
| 保健福祉長官 | トミー・トンプソン | マイケル・レビット |
| 住宅都市開発長官 | メル・マルティネス | アルフォンソ・ジャクソン → スティーブ・プレストン |
| 運輸長官 | ノーマン・ミネタ | メアリー・ピーターズ |
| エネルギー長官 | スペンサー・エイブラハム | サミュエル・ボドマン |
| 教育長官 | ロッド・ペイジ | マーガレット・スペリングス |
| 退役軍人長官 | アンソニー・プリンシピ | ジム・ニコルソン → ジェームズ・ピーク |
国土安全保障省が省として発足するのは9.11後です。制度改革を経て、2003年から正式なCabinetポストが一つ増えました。
2001年1月|どんなチームで始まったのか
ブッシュはテキサス州知事から大統領へ進みました。大統領就任前の主な公職は州知事で、安全保障分野はチェイニー、パウエル、ラムズフェルドら経験者が支える構成でした。
チェイニーはフォード政権の大統領首席補佐官、下院議員、父ジョージ・H・W・ブッシュ政権の国防長官を経験。パウエルは統合参謀本部議長として湾岸戦争期の米軍を支え、ラムズフェルドもフォード政権で国防長官を務めた経験者でした。
一方、国内政策には州知事や企業経営者が目立ちます。保健福祉長官トミー・トンプソンはウィスコンシン州知事、教育長官ロッド・ペイジはヒューストン独立学区の教育長、商務長官ドナルド・エバンスはエネルギー企業経営者、財務長官ポール・オニールはアルコア会長でした。
発足時の顔ぶれを見ると、「ワシントンの安全保障経験者」と「州政府・企業・現場の経営経験者」を組み合わせた構成でした。ブッシュはラムズフェルドについて、創造性、経験、結果を出す指導力を評価したと説明しています。ロッド・ペイジについても、学校を実際に運営してきた経験が重視されました。
この時点で中心だった国内課題の一つが教育改革です。のちのNo Child Left Behind Actにつながる政策は、9.11以前からブッシュ政権の主要案件でした。
9.11で「チームの仕事」が変わった
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルとワシントン郊外の国防総省などが攻撃されました。
9.11委員会は後年、テロ対策はクリントン政権でも9.11以前のブッシュ政権でも、国家安全保障上の最優先課題にはなっていなかったと総括しています。
事件後は政策の重心が急速に変わりました。司法省はテロ捜査と法制度整備を進め、2001年10月にはUSA PATRIOT Actが成立しました。FBIは犯罪捜査中心の組織から、脅威を事前に把握する情報・国家安全保障型組織への転換を進めます。
ホワイトハウスには国土安全保障を統括する新しい役職が置かれ、ペンシルベニア州知事だったトム・リッジが就任しました。2002年11月にはHomeland Security Actが成立。国境、交通、緊急事態対応などに関わる多数の組織をまとめるDepartment of Homeland Security(国土安全保障省)が新設され、2003年3月には22の機関・プログラムの大規模な移管が進みました。
DNI創設|情報機関全体を束ねる役職が生まれた
9.11後の再編は国土安全保障省だけではありません。2004年12月のIntelligence Reform and Terrorism Prevention Actは、CIAを含む情報機関全体の連携を強めるため、Director of National Intelligence(DNI、国家情報長官)を新設しました。ODNIは2005年4月に業務を始め、初代DNIにはジョン・ネグロポンテが就任しました。
それまでCIA長官が担っていた情報機関全体の調整機能はDNIへ移り、CIAは自らの組織運営に重点を置く形へ変わりました。CIAではジョージ・テネット退任後、ポーター・ゴス、続いて2006年にマイケル・ヘイデンが長官を務めます。DNIは2007年にネグロポンテからマイク・マコーネルへ交代し、情報共有と情報機関間の統合を進めました。

外交・安全保障の中枢|戦争と外交を担った6人
ジョージ・W・ブッシュ|大統領
ブッシュは1946年生まれ。父は第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュです。石油関連事業、メジャーリーグ球団テキサス・レンジャーズの共同経営などを経て、1995年からテキサス州知事を務めました。
歴代アメリカ大統領の流れは、初代から第47代までの一覧でも整理しています。
大統領就任直後は減税、教育改革、エネルギー、社会保障、軍の「変革」などが主要課題でした。9.11後、大統領としての仕事は対テロ戦争を中心に再編されます。アフガニスタンでの軍事作戦、国土安全保障体制の再編、2003年のイラク侵攻が外交・安全保障の軸になりました。
国内ではNo Child Left Behind、Medicareの処方薬給付、PEPFARなど、後に長く残る制度も成立しています。

ディック・チェイニー|副大統領
チェイニーはフォード政権で大統領首席補佐官、下院議員、父ブッシュ政権で国防長官を経験し、その後はエネルギー関連企業ハリバートンのCEOを務めました。
副大統領は憲法上、上院議長も務めます。チェイニーは国家安全保障、国防、エネルギーなど幅広い政策形成に深く関与し、9.11、アフガニスタン、イラク戦争という重大局面で大統領の近くにいました。

コリン・パウエル|国務長官
パウエルは陸軍軍人出身で、レーガン政権では国家安全保障担当大統領補佐官、父ブッシュ政権では統合参謀本部議長を務めました。2001年、アフリカ系アメリカ人として初めて国務長官に就任します。
9.11後は同盟国・国際社会との外交を担い、2003年2月には国連安全保障理事会でイラクの大量破壊兵器に関する米政府の情報を提示しました。しかし侵攻後、政権が想定した大量破壊兵器の大規模な備蓄は確認されず、米上院情報特別委員会などの後年の調査では戦前の情報評価に重大な問題があったことが検証されています。
2005年、第2期の開始とともに退任し、後任にはコンドリーザ・ライスが入りました。

コンドリーザ・ライス|国家安全保障担当大統領補佐官から国務長官へ
ライスはソ連・東欧研究を専門とした政治学者です。スタンフォード大学教授・プロボスト、父ブッシュ政権の国家安全保障会議スタッフなどを経験しました。
第1期では国家安全保障担当大統領補佐官として9.11、アフガニスタン戦争、イラク戦争を大統領の近くで担当。2004年11月、ブッシュは第2期の国務長官にライスを指名し、過去4年間の助言、経験、安定した判断を評価したと説明しました。
国務長官就任後は同盟調整、中東政策、北朝鮮核問題をめぐる六者会合などを担当しました。

ドナルド・ラムズフェルド|「軍の変革」を託された国防長官
ラムズフェルドはニクソン、フォード両政権で要職を経験し、1975年には国防長官へ就任していました。2001年に再び国防長官となり、当初は米軍の「transformation」が重要課題でした。
9.11後はアフガニスタン戦争、続いてイラク戦争を担当します。イラクではサダム・フセイン政権が短期間で崩壊した一方、占領後の治安悪化と武装勢力の活動が長期化しました。2006年11月、ブッシュはロバート・ゲーツへの交代を発表しました。

ロバート・ゲーツ|戦争が行き詰まる中で呼ばれた「新しい視点」
ゲーツはCIAに長く勤務し、父ブッシュ政権ではCIA長官を務めました。その後テキサスA&M大学学長となり、2006年にはIraq Study Groupにも参加していました。
ブッシュはラムズフェルドの後任としてゲーツを指名し、ホワイトハウスは「fresh perspective」「new ideas」を求める人事と説明しました。就任後、2007年のイラクへの米軍増派、いわゆる「surge」が実施されます。
2009年に民主党のバラク・オバマ政権が発足した後も、ゲーツは国防長官として留任しました。

司法と国土安全保障|9.11後に役割が最も変わった分野
ジョン・アシュクロフト|司法長官
アシュクロフトはミズーリ州司法長官、州知事、上院議員を経験した共和党政治家です。上院承認は58対42でした。
就任から約7か月後に9.11が発生し、司法省はテロ捜査、情報共有、テロ資金対策などへ大きく軸足を移しました。2001年10月にはUSA PATRIOT Actが成立し、捜査権限や情報共有を拡大する一方、市民的自由や監視権限をめぐる議論も続きました。

アルベルト・ゴンザレス|ホワイトハウス法律顧問から司法長官へ
ゴンザレスはテキサス州でブッシュの法律顧問、州務長官、州最高裁判事を務め、2001年からWhite House Counselを担当しました。2005年、ヒスパニック系として初めて司法長官に就任し、上院承認は60対36でした。
テロ対策時代の大統領権限、監視、被拘束者政策など、ブッシュ政権の法的論争と近い位置にいました。連邦検事解任問題をめぐる政治的対立の中、2007年に辞任を発表し、後任はマイケル・ムケイジーとなりました。

マイケル・ムケイジー|政権終盤の司法長官
ムケイジーは連邦地裁判事を長く務めた法律家です。2007年11月、ゴンザレスの後任として司法長官に就任しました。
政権終盤の司法省を率い、テロ対策と法の運用を担いました。

トム・リッジ|「省になる前」から国土安全保障を担当
リッジは元下院議員、ペンシルベニア州知事です。9.11後、ホワイトハウスの国土安全保障局長に起用され、2003年にDepartment of Homeland Securityが発足すると初代長官に就任しました。
多数の機関を一つの省へ統合する大規模な組織再編を担い、2005年に退任しました。

マイケル・チャートフ|カトリーナで試された第2代DHS長官
チャートフは連邦検察官、司法省刑事局、連邦控訴裁判所判事を経て、2005年に第2代国土安全保障長官へ就任しました。
同年8月にハリケーン・カトリーナが米南部を襲い、DHSとFEMAを含む政府の準備、情報共有、指揮系統、対応の遅れが厳しく検証されました。

経済チーム|減税から金融危機対応へ
ポール・オニール|企業経営者出身の初代財務長官
オニールは連邦政府の予算部門、民間企業を経てアルコア会長を務めた経営者でした。ブッシュ政権の初代財務長官として減税や景気政策を担当しましたが、2002年末に退任しました。

ジョン・スノー|景気回復期の財務長官
スノーは運輸省などの政府経験と鉄道会社CSXの経営経験を持ち、2003年から2006年まで財務長官を務めました。減税政策や景気回復、国際経済政策の説明役を担いました。

ヘンリー・ポールソン|2008年金融危機の中心に立った財務長官
ポールソンは投資銀行ゴールドマン・サックスの会長兼CEOを経て、2006年に財務長官へ就任しました。
2008年の金融危機では、連邦準備制度などと連携しながら金融システム安定化策を進めます。Emergency Economic Stabilization ActによりTARPが創設され、当初は最大7000億ドルまでの公的資金を使える枠組みでした。
2008年の世界金融危機の流れは、リーマン・ショックを含む経済危機の解説でも整理しています。
財務省の2023年最終集計では実支出は4435億ドル、TARP全体の最終的な生涯コストは約311億ドルでした。法的上限、実支出、最終コストは別の数字です。

国内政策を担った各省の長官
ゲイル・ノートン|内務長官
元コロラド州司法長官。2001年から2006年まで内務長官を務め、公有地、エネルギー資源、自然保護などを担当しました。

ダーク・ケンプソーン|内務長官
アイダホ州選出上院議員、州知事を経て2006年に就任し、政権末まで内務長官を務めました。

アン・ベネマン|農務長官
カリフォルニア州農務行政や米農務省で経験を積み、2001年から2005年まで農務長官を務めました。その後UNICEF事務局長に就任しました。

マイク・ジョハンズ|農務長官
ネブラスカ州知事を経て2005年に農務長官へ就任し、農業政策と通商問題を担当しました。2007年に退任し、後に上院議員となりました。

エド・シェーファー|農務長官
ノースダコタ州知事経験者で、2008年から政権末まで農務長官を務めました。

ドナルド・エバンス|商務長官
ブッシュのテキサス時代から近い企業経営者で、2001年から2005年まで商務長官を務め、企業・通商・経済政策を担当しました。

カルロス・グティエレス|商務長官
キューバ生まれで、ケロッグ会長兼CEOを経て2005年に商務長官へ就任。通商、競争力、移民政策をめぐる政権内議論にも関わりました。

イレーン・チャオ|8年間在任した労働長官
運輸省、平和部隊、United Wayなどを経て2001年に労働長官へ就任し、政権の8年間を通じて在任しました。後に第1次トランプ政権で運輸長官も務めました。

トミー・トンプソン|保健福祉長官
ウィスコンシン州知事を長く務めた後、2001年に保健福祉長官へ就任。9.11直後の炭疽菌事件など公衆衛生危機に対応し、Medicare処方薬給付制度創設期のHHSを率いました。

マイケル・レビット|保健福祉長官
ユタ州知事、EPA長官を経て2005年に保健福祉長官へ就任。Medicare Part Dの本格運用や感染症対策などを担当しました。

メル・マルティネス|住宅都市開発長官
フロリダ州オレンジ郡長などを経て2001年にHUD長官へ就任。住宅政策や持ち家促進策を担当し、2003年に退任しました。

アルフォンソ・ジャクソン|住宅都市開発長官
HUD副長官から2004年に長官へ昇格。住宅政策を担当しましたが、契約をめぐる調査が続く中で2008年に辞任しました。

スティーブ・プレストン|金融危機期のHUD長官
中小企業庁長官を経て2008年にHUD長官へ就任。住宅市場の悪化と金融危機が深刻化する時期に住宅行政を担当しました。

ノーマン・ミネタ|9.11時の運輸長官
民主党の元下院議員で、クリントン政権の商務長官から共和党ブッシュ政権の運輸長官へ入りました。9.11当日の航空対応と、その後の航空保安体制再編に深く関わりました。

メアリー・ピーターズ|運輸長官
アリゾナ州の道路行政や連邦道路局長を経て2006年に運輸長官へ就任し、道路・交通インフラ政策を担当しました。

スペンサー・エイブラハム|エネルギー長官
ミシガン州選出上院議員を経て2001年にエネルギー長官へ就任。原子力、化石燃料、電力、エネルギー安全保障などを担当しました。

サミュエル・ボドマン|エネルギー長官
企業経営や商務省・財務省での勤務を経て2005年にエネルギー長官へ就任。高騰するエネルギー価格や技術開発、エネルギー安全保障を担当しました。

ロッド・ペイジ|No Child Left Behindを実施した教育長官
ヒューストン独立学区の教育長を経て2001年に教育長官へ就任し、No Child Left Behind Actの成立と実施を担いました。

マーガレット・スペリングス|ホワイトハウスから教育省へ
テキサス時代からブッシュの教育政策に関わり、ホワイトハウスの国内政策担当補佐官を経て2005年に教育長官へ就任。NCLBの運用と高等教育政策などを担当しました。

アンソニー・プリンシピ|退役軍人長官
海軍士官、退役軍人行政の実務家として経験を積み、2001年から2005年まで退役軍人長官を務めました。アフガニスタン・イラク戦争で退役軍人政策の重要性が高まる時期のVAを率いました。

ジム・ニコルソン|退役軍人長官
陸軍経験、共和党全国委員長、駐バチカン大使を経て2005年に退役軍人長官へ就任。2007年まで務めました。

ジェームズ・ピーク|医師・退役軍人行政の専門家
陸軍軍医総監などを務めた医師で、2007年12月から政権末まで退役軍人長官を務めました。

ホワイトハウス中枢|閣僚ではないが政権を動かした6人
アンドリュー・カード|第1期の大統領首席補佐官
父ブッシュ政権の運輸長官経験者で、2001年から2006年まで首席補佐官を務めました。9.11発生時、フロリダの小学校でブッシュ大統領に攻撃を知らせた人物としても知られます。

ジョシュア・ボルテン|第2期後半の首席補佐官
2000年選挙の政策責任者、副首席補佐官、OMB長官などを経て2006年4月に首席補佐官へ就任。政権後半の人事刷新と政策調整を担いました。

スティーヴン・ハドリー|第2期の国家安全保障担当補佐官
第1期はライスの下で国家安全保障担当副補佐官を務め、第2期に国家安全保障担当大統領補佐官へ昇格。イラク、アフガニスタン、北朝鮮、対ロシア政策などを調整しました。

ジョージ・テネット|前政権から留任したCIA長官
テネットは1997年、クリントン政権でCIA長官に就任し、ブッシュ政権でも留任しました。在任中に9.11が発生し、CIAの対アルカイダ活動は最優先課題になります。
その後、イラクの大量破壊兵器をめぐる情報評価が大きな問題となり、2004年に退任しました。後年の公式調査は、テネット個人だけでなく情報機関全体の分析と政策決定過程を検証しました。

ロバート・ミュラー|就任1週間後に9.11を迎えたFBI長官
ミュラーは司法省や連邦検察で働き、2001年9月4日にFBI長官へ就任しました。そのちょうど1週間後に9.11が発生します。
FBI自身の後年の公式史は、ミュラー期に組織が伝統的な犯罪捜査中心から脅威に焦点を当てた情報主導の国家安全保障組織へ変化したと説明しています。任期はオバマ政権の2013年まで続きました。

カール・ローブ|選挙と国内政治を担った上級顧問
ローブはテキサス時代からブッシュの政治戦略を支え、2000年大統領選ではChief Strategistを務めました。ホワイトハウスではSenior Advisor、のちにDeputy Chief of Staffを務め、2004年の再選戦略や国内政治で大きな役割を持ちました。

第2期で何が変わった?「第1期の顔」が次々交代
2005年1月に第2期が始まると、主要ポストがかなり入れ替わります。国務長官はパウエルからライスへ、司法長官はアシュクロフトからゴンザレスへ、保健福祉長官はトンプソンからレビットへ、教育長官はペイジからスペリングスへ替わりました。農務、商務、退役軍人の各長官も交代しています。
第1期で大統領の近くにいたライスやスペリングスが省庁トップへ移った点が特徴です。一方、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、チャオ労働長官などは残りました。
2006年になると、カードからボルテンへ首席補佐官が交代し、財務長官にはポールソン、国防長官にはゲーツが入ります。政権後半ほど、イラク戦争、支持率低下、金融市場など、すでに発生している問題への対応を意識した人事が増えました。
政策はその後どうなった?8つの「答え合わせ」
1. No Child Left Behind|制度名は消えたが、学校評価の発想は残った
NCLBは2002年に成立した教育改革です。学力基準、毎年の測定、属性別の成績公表、成績不振校への対応を強め、連邦政府が学校教育の結果へ踏み込む制度でした。
2015年、オバマ政権下でEvery Student Succeeds Act(ESSA)が成立し、NCLBは置き換えられました。制度は大きく再設計されましたが、学力テストと成果の可視化という考え方は新制度にも残りました。
2. Medicare Part D|現在まで続く大きな制度
2003年のMedicare Modernization Actで、Medicareに外来処方薬を対象とするPart Dが導入され、給付は2006年に本格開始しました。制度は現在もMedicareの主要部分として続いています。
3. PEPFAR|後続政権に引き継がれた国際保健政策
2003年1月、ブッシュはPresident’s Emergency Plan for AIDS Relief(PEPFAR)を発表しました。当初は5年間で150億ドルを投じる計画でした。
米国務省は20周年の2023年、PEPFARによって2500万人を超える命が救われたと発表しています。これは2003年から2023年までの累積的成果で、PEPFARは後続政権と議会によって継続されました。
4. 国土安全保障省|巨大組織は残ったが、カトリーナで弱点も露呈
国土安全保障省は9.11後に新設され、その後も主要省として存続しています。一方、2005年のハリケーン・カトリーナではDHSとFEMAを含む危機対応体制が厳しく問われました。連邦議会の調査報告『A Failure of Initiative』は、連邦・州・地方の準備、指揮、情報共有の失敗を検証しています。
5. イラクの大量破壊兵器|戦争前の中心的根拠は後に崩れた
2003年のイラク侵攻前、ブッシュ政権はサダム・フセイン政権の大量破壊兵器を重大な脅威として説明しました。しかし侵攻後、想定されていた大量破壊兵器の備蓄は確認されず、米上院情報特別委員会などは戦前の情報評価に深刻な問題があったことを検証しました。
当時の政府の主張、情報機関の評価、戦後に判明した事実、後の議会調査を分けて見る必要があります。
6. TARP|危機時に始まり、オバマ政権まで続いた
2008年金融危機で成立したTARPは最大7000億ドルの公的資金を使える仕組みとして始まり、政権交代後も運用が続きました。財務省の2023年最終集計では実支出は4435億ドル、TARP全体の最終的な生涯コストは約311億ドルでした。
7. ブッシュ減税|期限付きの大型減税は後継政権で一部修正され、多くが残った
ブッシュ政権は2001年のEconomic Growth and Tax Relief Reconciliation Act(EGTRRA)と2003年のJobs and Growth Tax Relief Reconciliation Act(JGTRRA)で、所得税率の引き下げ、児童税額控除の拡充、配当・キャピタルゲイン課税の軽減などを進めました。多くの措置には期限があり、当初は2010年末までに失効する仕組みでした。
オバマ政権は2010年、これらの減税の多くを2年間延長しました。さらに2012年末のAmerican Taxpayer Relief Actでは、中低所得層を中心に多くの税率を恒久化する一方、高所得層の最高税率は39.6%へ戻されました。ブッシュ減税は政権交代で全面的に廃止されたのではなく、一部を修正しながら米国の税制に長く残りました。
8. ロバート・ゲーツ|人事そのものが答え合わせになった
2006年、ブッシュはイラク戦争の難局でラムズフェルドからゲーツへ国防長官を交代させました。2009年、大統領が共和党のブッシュから民主党のオバマへ替わってもゲーツは留任し、戦時の国防運営で継続性が重視された人事となりました。
8年間を人物から見ると、ブッシュ政権の変化が分かる
2001年1月のブッシュ政権には、安全保障の経験者、州知事、企業経営者、教育・行政の実務家が集まりました。発足8か月後の9.11で安全保障と司法の仕事は大きく変わり、国土安全保障省が生まれ、FBIも組織の優先順位を変えました。
イラク戦争が長期化した2006年にはラムズフェルドからゲーツへ国防長官が交代し、同じ年に首席補佐官はボルテン、財務長官はポールソンへ替わりました。そして2008年、政権最後の巨大な危機は戦争ではなく金融でした。
この8年間には、失敗が厳しく検証された政策も、後の政権へ長く引き継がれた制度もあります。人物と担当を一緒に追うことで、政策の決定と結果を「誰が、どの時期に、どの役割で担ったのか」まで整理できます。
次の政権:バラク・オバマ政権
参考文献・一次資料
政権構成・人事
George W. Bush White House Archive, President Bush’s Cabinet
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/government/cabinet.html
U.S. Senate, George W. Bush Cabinet Nominations
https://www.senate.gov/legislative/nominations/Bush_cabinet.htm
9.11・国土安全保障
National Commission on Terrorist Attacks Upon the United States, The 9/11 Commission Report
https://www.9-11commission.gov/report/911Report.pdf
President Signs USA PATRIOT Act
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2001/10/20011026-5.html
President Bush Signs Homeland Security Act
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2002/11/20021125-6.html
Office of the Director of National Intelligence, History
https://www.dni.gov/index.php/who-we-are/history
外交・国防・イラク
President Nominates Condoleezza Rice as Secretary of State
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2004/11/20041116-3.html
President Bush Nominates Dr. Robert M. Gates to be Secretary of Defense
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2006/11/20061108-4.html
U.S. Senate Select Committee on Intelligence, S. Rept. 108-301
https://www.govinfo.gov/app/details/CRPT-108srpt301/CRPT-108srpt301
U.S. Senate Select Committee on Intelligence, S. Rept. 109-331
https://www.govinfo.gov/app/details/CRPT-109srpt331/CRPT-109srpt331
教育・医療・PEPFAR
U.S. Department of Education, Every Student Succeeds Act (ESSA)
https://www.ed.gov/laws-and-policy/laws-preschool-grade-12-education/every-student-succeeds-act-essa
CMS, Medicare Drug Plans Strong and Growing
https://www.cms.gov/newsroom/press-releases/medicare-drug-plans-strong-and-growing
George W. Bush White House Archive, PEPFAR Fact Sheet
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/news/releases/2003/01/20030129-1.html
U.S. Department of State, PEPFAR Celebrates 20 Years
https://2021-2025.state.gov/pepfar-celebrates-20-years-of-unprecedented-global-impact-in-the-fight-to-end-hiv-aids/
税制・金融危機・カトリーナ
U.S. Congress, Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 (H.R.1836)
https://www.congress.gov/bill/107th-congress/house-bill/1836
U.S. Congress, Jobs and Growth Tax Relief Reconciliation Act of 2003 (H.R.2)
https://www.congress.gov/bill/108th-congress/house-bill/2
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https://www.congress.gov/bill/112th-congress/house-bill/8
U.S. Department of the Treasury, About TARP
https://home.treasury.gov/data/troubled-assets-relief-program/about-tarp
U.S. House of Representatives, A Failure of Initiative, H. Rept. 109-377
https://www.govinfo.gov/app/details/CRPT-109hrpt377
司法・FBI・ホワイトハウス中枢
U.S. Department of Justice, Alberto Gonzales Resignation Remarks
https://www.justice.gov/archive/ag/speeches/2007/ag_speech_070827.html
Federal Bureau of Investigation, Robert S. Mueller III
https://www.fbi.gov/history/directors/robert-s-mueller-iii
George W. Bush White House Archive, Stephen Hadley Biography
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/nsc/text/hadleybio.html
George W. Bush White House Archive, Karl Rove Biography
https://georgewbush-whitehouse.archives.gov/results/leadership/bios/rovek.html
CIA Center for the Study of Intelligence, Profiles in Leadership
https://www.cia.gov/resources/csi/static/4789eee9e734cd7409eed3d133929b36/Profiles-in-Leadership-Updated-July-2023.pdf

