ジョー・バイデン政権は、2021年1月20日に発足しました。第1次トランプ政権から政権を引き継いだ時点で、米国はCOVID-19の流行、雇用回復、ワクチン接種という緊急課題を抱えていました。その後4年間で、アフガニスタン撤退、ロシアのウクライナ侵攻、インフレ、半導体・製造業への大型投資、移民問題、イスラエルとガザをめぐる戦争が重なります。
人事面では、第1次トランプ政権のような大量交代は少なく、主要閣僚の多くが任期を通じて在任しました。一方で、ホワイトハウスでは首席補佐官や国内政策担当が交代し、政権後半には2024年大統領選をめぐる大きな政治的変化も起きました。
現代アメリカ政権シリーズ:ジョージ・W・ブッシュ → バラク・オバマ → 第1次トランプ → バイデン(現在の記事) → 第2次トランプ。全体の流れは歴代アメリカ大統領一覧で確認できます。
- まず確認|バイデン政権のCabinetとこの記事で扱う人
- 2021年|どんなチームで政権を始めたのか
- 発足時の主要メンバー一覧
- 大統領と副大統領|バイデンとハリス
- 外交・安全保障|ブリンケン、オースティン、サリバン
- 経済・産業|イエレン、レモンド、タイ
- 国内政策を担った15省の長官
- ホワイトハウス中枢|クレインからザイエンツへ
- 議会との関係|大型法案は前半2年に集中した
- 2021年|コロナ後の立て直しと大型財政政策
- 経済はどう動いた?雇用回復とインフレ
- 2021年アフガニスタン撤退|20年の戦争を終える決定
- 2022年|ウクライナ戦争とNATO拡大
- 2022年|CHIPS法とインフレ抑制法で産業政策を転換
- 2022年|PACT Act、銃安全法、選挙人票集計改革
- 2023〜2024年|移民・国境政策が最大の国内争点の一つに
- 2023〜2025年|イスラエル・ガザ戦争と中東外交
- 2024年大統領選|バイデンが再選出馬を取りやめる
- 政策はその後どうなった?13の「答え合わせ」
- 第1次トランプからバイデン、そして第2次トランプへ
- 参考文献・一次資料
まず確認|バイデン政権のCabinetとこの記事で扱う人
米国のCabinetは、副大統領と15行政省の長が基本です。これに加えて、大統領がCabinet-level rankを与える国家情報長官、環境保護庁長官、米通商代表、行政管理予算局長、国連大使、中小企業庁長官などが政権の重要メンバーになります。
バイデン政権では、15行政省の正式長官の多くが4年間在任しました。労働省ではマーティ・ウォルシュが2023年3月に退任し、上院で副長官に承認されていたジュリー・スーがActing Secretaryを務めました。住宅都市開発省ではマーシャ・ファッジが2024年に退任し、副長官エイドリアン・トッドマンが政権末まで長官職の委任可能な職務を遂行しました。
Cabinet-levelでは、EPA長官マイケル・リーガン、国家情報長官アヴリル・ヘインズ、米通商代表キャサリン・タイ、国連大使リンダ・トーマス=グリーンフィールド、OMB局長シャランダ・ヤング、SBA長官イザベル・グズマン、CEA議長ジャレッド・バーンスタイン、OSTP局長アラティ・プラバカー、CIA長官ウィリアム・バーンズらも政権の中枢を担いました。
2021年|どんなチームで政権を始めたのか
発足時の人事には、オバマ政権経験者と専門官僚、州政府経験者が多く入りました。バイデン自身がオバマ政権で8年間副大統領を務めていたため、国務長官アントニー・ブリンケン、国家安全保障担当大統領補佐官ジェイク・サリバン、国内政策会議のスーザン・ライスなど、過去に一緒に働いた人物が中枢へ戻っています。
一方、ジャネット・イエレン財務長官は連邦準備制度理事会議長経験者、ロイド・オースティン国防長官は中央軍司令官経験者、ジーナ・レモンド商務長官はロードアイランド州知事経験者でした。専門性と行政経験を組み合わせた人事が目立ちます。
発足時の主要メンバー一覧
| ポスト | 発足時 | 主な担当 |
|---|---|---|
| 大統領 | ジョー・バイデン | 政権全体 |
| 副大統領 | カマラ・ハリス | 上院・中絶権・移民外交など |
| 国務長官 | アントニー・ブリンケン | 外交 |
| 財務長官 | ジャネット・イエレン | 財政・制裁・国際経済 |
| 国防長官 | ロイド・オースティン | 国防・ウクライナ支援 |
| 司法長官 | メリック・ガーランド | 司法省・連邦法執行 |
| 内務長官 | デブ・ハーランド | 公有地・先住民政策 |
| 農務長官 | トム・ヴィルサック | 農業・食料政策 |
| 商務長官 | ジーナ・レモンド | CHIPS法・輸出管理 |
| 労働長官 | マーティ・ウォルシュ | 雇用・労働政策 |
| 保健福祉長官 | ハビエル・ベセラ | 医療・COVID-19 |
| 住宅都市開発長官 | マーシャ・ファッジ | 住宅政策 |
| 運輸長官 | ピート・ブティジェッジ | インフラ・運輸 |
| エネルギー長官 | ジェニファー・グランホルム | エネルギー・脱炭素 |
| 教育長官 | ミゲル・カルドナ | 学校再開・学生ローン |
| 退役軍人長官 | デニス・マクドノー | 退役軍人政策 |
| 国土安全保障長官 | アレハンドロ・マヨルカス | 国境・移民・サイバー |
上院承認では、オースティン国防長官が93対2、ヴィルサック農務長官が92対7、マクドノー退役軍人長官が87対7で承認されました。一方、ベセラ保健福祉長官は50対49、ハーランド内務長官は51対40と接戦でした。
大統領と副大統領|バイデンとハリス
ジョー・バイデン|上院議員、副大統領を経て第46代大統領へ

バイデンはデラウェア州選出の連邦上院議員を36年間務め、2009年から2017年までオバマ政権の副大統領でした。外交・議会経験の長さを背景に、同盟関係の再構築と国内投資を政権の柱にしました。
2021年にはCOVID-19対策と景気回復を優先し、その後はインフラ、半導体、気候変動・エネルギー投資を大型法案で進めました。外交ではアフガニスタンから米軍を撤収する一方、2022年以降はウクライナへの大規模支援とNATO強化を進めました。
カマラ・ハリス|米国初の女性副大統領

ハリスはカリフォルニア州司法長官、連邦上院議員を経て副大統領となりました。女性、黒人、南アジア系として初の副大統領です。
上院議長として議会採決に関わったほか、中絶の権利、銃規制、投票権、中米からの移住要因への外交などを担当しました。2024年7月にバイデンが再選出馬を取りやめると、民主党の大統領候補となりました。
外交・安全保障|ブリンケン、オースティン、サリバン
アントニー・ブリンケン|同盟外交を担った国務長官

ブリンケンはクリントン政権、オバマ政権で国家安全保障・外交政策を担当し、バイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官も務めました。国務長官としてNATO、G7、インド太平洋の同盟・パートナー関係を重視しました。
アフガニスタン撤退、ロシアのウクライナ侵攻、中国との競争、イスラエル・ガザ戦争など、政権の主要外交案件を通じて在任しました。
ロイド・オースティン|ウクライナ支援を担った国防長官

オースティンは陸軍大将、中央軍司令官を務めた軍人で、米国初の黒人国防長官となりました。アフガニスタン撤退、中国への軍事的抑止、ウクライナ支援を担当しました。
ロシアの全面侵攻後は、各国の国防関係者を集めるUkraine Defense Contact Groupを通じて武器・弾薬支援を調整しました。
ジェイク・サリバン|国家安全保障担当大統領補佐官

サリバンはヒラリー・クリントン国務長官の政策企画部門やバイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官を経験しました。ホワイトハウスでは外交・安全保障政策を大統領の近くで調整し、対中政策、ウクライナ、中東、経済安全保障を横断して扱いました。
アヴリル・ヘインズ|国家情報長官

オバマ政権でCIA副長官、国家安全保障担当副補佐官を務め、女性初のDirector of National Intelligenceとなりました。ウクライナ侵攻前のロシア軍集結など、安全保障判断に必要な情報機関の分析を取りまとめました。
経済・産業|イエレン、レモンド、タイ
ジャネット・イエレン|FRB議長経験者の財務長官

イエレンは連邦準備制度理事会議長を経験した経済学者で、女性初の財務長官となりました。American Rescue Plan、国際法人課税、ロシアへの金融制裁などを担当しました。
2021年後半以降は物価上昇が大きな政治課題となり、政権は供給制約、エネルギー価格、需要回復などが重なったインフレへの対応を迫られました。
ジーナ・レモンド|CHIPS法を実装した商務長官

ロードアイランド州知事を経て商務長官となりました。半導体供給網、中国向け先端技術の輸出管理、CHIPS and Science Actの補助金制度を担当しました。
バイデン政権の産業政策では、商務省が半導体工場の国内投資を直接支援する役割を担い、TSMC、Intel、Micron、Samsungなどへの大型支援を進めました。
キャサリン・タイ|第1次トランプ政権の対中関税を引き継いだ通商代表

議会スタッフやUSTRで中国案件を担当した通商法律家です。バイデン政権は第1次トランプ政権のSection 301対中関税を全面撤廃せず、2024年にはEV、半導体、太陽電池など一部戦略品目の税率を引き上げました。
国内政策を担った15省の長官
メリック・ガーランド|司法長官

連邦控訴裁判所判事を長く務めた法律家です。司法省は2021年1月6日事件の捜査、独占禁止、投票権、連邦法執行などを担当しました。
デブ・ハーランド|内務長官

ニューメキシコ州選出の下院議員から内務長官となり、先住民として初の閣僚となりました。公有地、自然保護、エネルギー開発、部族政策を担当しました。
トム・ヴィルサック|農務長官

オバマ政権で8年間農務長官を務めた後、同じ役職に復帰しました。農業支援、食料援助、農村政策、気候対応型農業などを担当しました。
マーティ・ウォルシュ/ジュリー・スー|労働省

ボストン市長だったウォルシュは2021年に労働長官となり、雇用回復、労使政策、インフラ投資に伴う労働政策を担当しました。2023年に退任後、副長官ジュリー・スーが長官代行を務めました。スーは正式長官に指名されましたが、上院で確認されませんでした。
ハビエル・ベセラ|保健福祉長官

下院議員、カリフォルニア州司法長官を経てHHS長官となりました。COVID-19対応、Affordable Care Act、薬価政策、中絶・生殖医療をめぐる連邦政策を担当しました。
マーシャ・ファッジ/エイドリアン・トッドマン|住宅都市開発省

ファッジはオハイオ州選出の下院議員からHUD長官となり、住宅支援、公正住宅、ホームレス対策を担当しました。2024年に退任後、副長官エイドリアン・トッドマンが、政権末まで長官職の委任可能な職務を遂行しました。
ピート・ブティジェッジ|運輸長官

インディアナ州サウスベンド市長、2020年民主党大統領候補を経て運輸長官となりました。Bipartisan Infrastructure Lawに基づく道路、橋、鉄道、空港、公共交通投資を担当しました。
ジェニファー・グランホルム|エネルギー長官

ミシガン州知事経験者で、エネルギー省では電力網、原子力、再生可能エネルギー、電池・EV供給網などを担当しました。Inflation Reduction ActやInfrastructure Lawのエネルギー投資を実装しました。
ミゲル・カルドナ|教育長官

公立学校教師・校長、コネティカット州教育長官を経て就任しました。学校再開、学習損失、大学政策、連邦学生ローン返済・債務軽減策を担当しました。
デニス・マクドノー|退役軍人長官

オバマ政権で国家安全保障担当副補佐官やWhite House Chief of Staffを務めた人物です。VA長官として医療、PACT Actの実施、退役軍人の有害物質曝露への補償を担当しました。
アレハンドロ・マヨルカス|国土安全保障長官

オバマ政権でDHS副長官を務めた法律家です。南西部国境、難民・庇護、サイバーセキュリティ、災害対応を担当しました。移民流入の増加により、政権後半の政治的対立の中心人物となりました。
ホワイトハウス中枢|クレインからザイエンツへ
ロン・クレイン|発足時の大統領首席補佐官(White House Chief of Staff)

上院スタッフ、副大統領首席補佐官、オバマ政権のエボラ対応調整官などを経験しました。政権発足から2023年2月まで首席補佐官を務め、COVID-19対応、大型法案、議会調整を統括しました。
ジェフ・ザイエンツ|政権後半の大統領首席補佐官

オバマ政権で行政管理予算局長、国家経済会議議長を務め、バイデン政権発足時にはCOVID-19対応調整官を担当しました。2023年にクレインの後任として首席補佐官となりました。
スーザン・ライス|国内政策会議を率いた元国家安全保障補佐官

オバマ政権で国連大使、国家安全保障担当大統領補佐官を務め、バイデン政権ではDomestic Policy Council Directorとして人種格差、医療、移民、銃政策など国内政策を調整しました。2023年に退任し、ニーラ・タンデンが後任となりました。
シャランダ・ヤング|行政管理予算局長

議会スタッフ経験が長く、OMB副局長から局長へ昇格しました。予算編成、歳出交渉、政府閉鎖回避などでホワイトハウスと議会をつなぐ役割を担いました。
議会との関係|大型法案は前半2年に集中した
政権発足時の上院は、民主党系50議席と共和党50議席の同数でした。副大統領ハリスが上院議長として決選票を投じることで民主党が多数派を確保し、ハリスは在任中に33回のタイブレーク投票を行いました。下院も2021〜2022年は民主党が多数派で、バイデン政権は最初の2年間、上下両院と大統領職を民主党が握る統一政府でした。
2022年中間選挙後の第118議会では、下院が共和党222、民主党213となり、2023〜2024年は分割政府になりました。American Rescue Plan、インフラ法、CHIPS法、Inflation Reduction Actなど主要な大型立法が前半2年に集中した背景には、この議会構成があります。
2021年|コロナ後の立て直しと大型財政政策
政権発足時の最優先課題はCOVID-19でした。2021年3月にはAmerican Rescue Plan Actが成立し、家計への直接給付、失業支援、州・地方政府支援、ワクチン・検査、学校再開などに大規模な財政支出を行いました。
同年11月にはInfrastructure Investment and Jobs Act、通称Bipartisan Infrastructure Lawが成立しました。道路・橋、鉄道、公共交通、ブロードバンド、水道、電力網、EV充電などの長期投資が始まり、政権終了後もプロジェクト実施が続く制度になりました。
経済はどう動いた?雇用回復とインフレ
バイデン就任直後の2021年1月、失業率は6.3%でした。政権末の2025年1月には4.0%まで低下しました。一方、消費者物価指数の前年比上昇率は2022年6月に9.1%へ達し、その後は鈍化して2025年1月には3.0%となりました。2024年の実質GDPは年間で2.8%増加しました。
これらの変化を政権の政策だけに帰属させることはできません。COVID-19後の経済再開、American Rescue Planなどの財政政策、FRBの金融政策、供給網の混乱、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格などが重なりました。危機と政策対応を長期的に比べる場合は、経済危機が経済学をどう変えたかも関連します。バイデン政権期は、雇用回復と高インフレ、その後の物価上昇率の鈍化が同時に進んだ4年間でした。
2021年アフガニスタン撤退|20年の戦争を終える決定
アフガニスタン戦争からの撤退は、二つの政権をまたぐ決定でした。第1次トランプ政権は2020年のドーハ合意で米軍撤退の枠組みを作り、バイデンは就任後に最終撤退を決定して実行しました。国務省のAfter Action Reviewも、トランプとバイデン両大統領による軍事任務終了の決定がアフガニスタン政府と治安に重大な影響を与えたと整理しています。
2021年8月、タリバンが予想を上回る速さで全土を掌握し、カブールが陥落しました。米国は空港から米国人、現地協力者、アフガニスタン人を大規模に退避させ、米軍撤退は8月末に完了しました。国務省の事後検証では、両政権を通じて最悪の事態への高官レベルの検討が不十分だったことも指摘されています。20年に及んだ軍事介入は終わりましたが、撤退時の混乱と退避の遅れはバイデン政権の大きな批判点となりました。
2022年|ウクライナ戦争とNATO拡大
2022年2月24日にロシアがウクライナへ全面侵攻すると、バイデン政権は直接の米露戦争を避けながら、ウクライナへ武器・弾薬・防空装備を供与し、ロシアへ金融・輸出制裁を課しました。
国防総省によると、バイデン政権発足以降のウクライナ向け安全保障支援は2025年1月までに665億ドルを超え、その大部分が全面侵攻後の支援でした。
侵攻は欧州の安全保障にも大きな変化を起こしました。軍事的非同盟を続けてきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請し、フィンランドは2023年4月4日、スウェーデンは2024年3月7日に正式加盟しました。
2022年|CHIPS法とインフレ抑制法で産業政策を転換
2022年8月、CHIPS and Science Actが成立しました。半導体製造、研究開発、人材育成を支援し、米国内に先端半導体工場を呼び戻すことを狙った法律です。商務省は企業と交渉し、製造拠点への直接補助を実施しました。
同月にはInflation Reduction Act(IRA)も成立しました。薬価、税制、気候・エネルギー政策をまとめた法律で、クリーンエネルギーや製造への税額控除を通じて民間投資を誘導しました。
これらは自由貿易を前提に市場へ任せるだけでなく、安全保障や供給網を理由に政府が国内製造を直接支援する政策でした。第1次トランプ政権の関税政策とは手段が異なりますが、中国依存を減らし国内生産を強化する方向には連続性があります。
2022年|PACT Act、銃安全法、選挙人票集計改革
2022年には、大型の産業政策以外にも制度として残る法律が成立しました。PACT Actは、burn pitsやAgent Orangeなど有害物質への曝露と関連する退役軍人の医療・給付を拡大しました。VAによると、2024年5月までにPACT Act関連の給付請求は100万件に達し、57億ドル超の給付が行われました。
Bipartisan Safer Communities Actは、21歳未満の銃購入者に対する強化された身元確認や、違法な銃器取引・ストロー購入を取り締まる新たな連邦犯罪を導入しました。司法省は2024年までに新規犯罪規定で500人超を訴追しています。
同年末のElectoral Count Reform Actは、2020年大統領選後の混乱を受け、選挙人票集計における副大統領の役割を事務的なものと明確化し、上下両院で異議を申し立てるための要件を引き上げました。2021年1月6日事件後の制度改正として、政権交代後も残る重要な法律です。
2023〜2024年|移民・国境政策が最大の国内争点の一つに
バイデン政権は発足直後、第1次トランプ政権の一部移民政策を撤回し、難民受け入れや合法移民制度を見直しました。しかし南西部国境での移民到着が増えると、国境管理と庇護制度が大きな政治問題になりました。
2024年には超党派の上院国境法案が成立しなかった後、大統領権限による措置を導入しました。一定の状況で、南部国境を不法に越境した非市民の入国を停止し、庇護資格を制限する仕組みを導入しました。CBPによると、導入後の2024年6月、南西部国境の入国地点間で国境警備隊が記録した遭遇は83,536件となり、前月比29%減、2021年1月以来の低水準でした。政権発足時の合法経路拡大・家族再統合重視から、政権後半には執行強化へ比重が移りました。
2023〜2025年|イスラエル・ガザ戦争と中東外交
2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃後、バイデン政権はイスラエルの安全保障を支持し、軍事支援を続けました。同時にガザの民間人被害と人道状況をめぐり、支援物資搬入や停戦交渉を各国と進めました。
政権末の2025年1月には、イスラエルとハマスの停戦・人質解放合意が成立しました。合意はバイデン政権が前年から進めていた枠組みを基礎とし、エジプトとカタールが仲介しました。同時に国務省は、次期トランプ政権の移行チームの関与も合意成立に極めて重要だったと説明しています。したがって、この停戦はバイデン政権だけの成果ではなく、複数の仲介者と政権移行チームを含む交渉の結果として捉える必要があります。
2024年大統領選|バイデンが再選出馬を取りやめる
バイデンは当初2024年大統領選で再選を目指しました。しかし年齢や職務遂行能力への懸念が強まり、6月の討論会後には民主党内から撤退を求める声が拡大しました。
2024年7月21日、バイデンは再選出馬を取りやめ、残りの任期の大統領職に集中すると表明しました。その後、ハリス副大統領が民主党候補となりました。11月の選挙ではドナルド・トランプが選挙人票312、ハリスが226となり、トランプが勝利しました。2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足しました。
政策はその後どうなった?13の「答え合わせ」
1. American Rescue Plan|緊急対策の多くは期限を迎えた
American Rescue PlanはCOVID-19期の緊急財政政策で、直接給付や失業支援など多くが一時措置でした。経済再開が進むにつれて主要措置は終了し、後継政権へ恒久制度としてそのまま残った政策ではありません。
2. Bipartisan Infrastructure Law|政権をまたぐ長期事業になった
インフラ法は複数年の建設・整備事業を前提とするため、バイデン退任後も道路、橋、公共交通、ブロードバンドなどの事業が続きます。法律そのものは第2次トランプ政権発足で消えませんでした。
3. CHIPS and Science Act|第2次トランプ政権でも半導体投資は続いた
CHIPS法の企業支援は第2次トランプ政権でも継続しました。2025年にはホワイトハウスがCHIPS Program Officeを新設のU.S. Investment Acceleratorの下に置き、条件や案件の見直しを進める方針を示しました。
同年、商務省はMicronの追加投資にCHIPS資金を使うと発表しています。制度運営の方針は変わっても、国内半導体製造を支援する政策自体は継続しました。
4. Inflation Reduction Act|気候税制は縮小、Medicare薬価制度は継続
第2次トランプ政権下の2025年成立法では、IRA由来の複数の気候・エネルギー税制が前倒しで終了しました。新車・中古車などのクリーン車税額控除は2025年9月30日までに取得した車両が対象となり、家庭向けEnergy Efficient Home Improvement CreditとResidential Clean Energy Creditも2025年末で終了しました。
一方、IRAの医療部分は残りました。Medicareが交渉した最初の10薬剤の価格は2026年1月1日に発効し、第2次トランプ政権のCMSも次の薬価交渉サイクルを進めています。IRAは全面撤回ではなく、気候・EV部分の一部が縮小され、薬価・Medicare部分は継続したと整理できます。
5. 中国へのSection 301関税|第1次トランプ→バイデン→第2次トランプへ続いた
バイデン政権は第1次トランプ政権の対中追加関税を維持し、一部を引き上げました。2026年にはUSTRが第2回4年レビューを開始しており、この関税枠組みは三つの政権をまたいで続いています。
6. パリ協定|復帰後、第2次トランプ政権で再び離脱
バイデンは就任日にパリ協定への復帰手続きを進め、米国は2021年に再び参加しました。第2次トランプ政権は2025年1月27日に離脱を通告し、2026年1月27日に離脱が発効しました。現在、米国はパリ協定の締約国ではありません。
7. 学生ローン債務軽減|一括免除は阻止、既存制度による救済は進んだ
最高裁は2023年6月30日のBiden v. Nebraskaで、HEROES Actを使った広範な一括債務免除を認めませんでした。一方、バイデン政権はPublic Service Loan Forgivenessの是正、Borrower Defense、恒久的障害、長期返済者向けの既存制度を通じ、政権末までに500万人超の借り手について債務救済を承認しました。
その後導入したSAVE返済計画は訴訟で停止し、第2次トランプ政権下の2026年、教育省は約750万人の加入者に別の返済計画へ移るよう案内しました。広範な一括免除は実現せず、既存法に基づく救済は大規模に進み、SAVEは後継政権で終了へ向かったという三段階の結果です。
8. ウクライナ支援とNATO|加盟拡大は残り、支援方法は変化
フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はバイデン退任後も維持されています。一方、第2次トランプ政権では2025年にウクライナへの軍事支援を一時停止・見直しする局面があり、支援の進め方は変化しました。
9. AI Executive Order 14110|第2次トランプ政権が撤回
バイデンは2023年10月、AIの安全性、政府利用、労働、プライバシーなどを扱うExecutive Order 14110を発令しました。第2次トランプ政権は2025年1月20日にこの命令を撤回し、新たなAI政策へ切り替えました。
10. 移民政策|発足直後の大統領令は第2次トランプ政権が撤回
バイデンが2021年に出した中米からの移住、家族再統合、合法移民制度、難民受け入れに関する複数の大統領令は、2025年1月20日に第2次トランプ政権が撤回しました。国境・移民は政権交代で最も大きく反転した分野の一つです。
11. PACT Act|退役軍人医療・給付の拡大は残った
PACT Actは有害物質への曝露と関連する退役軍人の医療・給付を拡大しました。VAは2024年5月までにPACT Act関連の給付請求100万件を認定し、57億ドル超を給付したと発表しています。法律は第2次トランプ政権でも存続し、退役軍人政策の恒久的な変更として残りました。
12. 銃安全法と選挙人票集計改革|2022年の制度改正が残った
Bipartisan Safer Communities Actが導入した違法な銃器取引・ストロー購入への新しい連邦犯罪規定や若年購入者への強化審査は、政権交代後も法律として残りました。Electoral Count Reform Actも、副大統領の選挙人票集計上の役割を事務的なものとし、異議申立て要件を引き上げた制度として継続しています。
13. 連邦司法任命|235人の終身任用判事が長期的に残った
バイデン政権では、最高裁のケタンジ・ブラウン・ジャクソンを含む235人の終身任用の連邦判事が上院で承認されました。内訳は地方裁判所187人、控訴裁判所45人、最高裁1人、国際通商裁判所2人です。ジャクソンは2022年4月7日に53対47で承認され、最高裁初の黒人女性判事となりました。大統領退任後も在任する司法任命は、バイデン政権の最も長く残る制度的遺産の一つです。
第1次トランプからバイデン、そして第2次トランプへ
バイデン政権は、第1次トランプ政権の政策を全面的に消した政権ではありません。パリ協定や移民大統領令では明確な反転があった一方、中国関税や対中競争、国内製造業重視では継承と拡張が見られました。
さらに、CHIPS法やインフラ法のように、バイデン政権で成立して第2次トランプ政権でも実施が続く法律があります。逆にAI大統領令、移民政策、気候関連税制の一部は政権交代後に撤回・縮小されました。
歴代政権を通して大統領と制度の関係を確認したい場合は、アメリカ大統領の歴史と政治制度ガイドもあわせて参照できます。
参考文献・一次資料
政権構成・人事
U.S. Senate, Joseph R. Biden, Jr. Cabinet Nominations
https://www.senate.gov/legislative/nominations/Biden_cabinet.htm
国内政策
The White House Archive, The Biden-Harris Administration Record
https://bidenwhitehouse.archives.gov/wp-content/uploads/2025/01/The-Biden-Harris-Administration-Record.pdf
The White House Archive, Inflation Reduction Act Guidebook
https://bidenwhitehouse.archives.gov/wp-content/uploads/2022/12/Inflation-Reduction-Act-Guidebook.pdf
U.S. Trade Representative, Section 301 Four-Year Review
https://ustr.gov/trade-topics/enforcement/section-301-investigations/section-301-china-technology-transfer/china-section-301-tariff-actions-and-exclusion-process/four-year-review
Internal Revenue Service, Clean Energy Credits under Public Law 119-21
https://www.irs.gov/newsroom/faqs-for-modification-of-sections-25c-25d-25e-30c-30d-45l-45w-and-179d-under-public-law-119-21-139-stat-72-july-4-2025-commonly-known-as-the-one-big-beautiful-bill-obbb
外交・安全保障
NATO, Finland joins NATO as 31st Ally
https://www.nato.int/en/news-and-events/articles/news/2023/04/04/finland-joins-nato-as-31st-ally
NATO, Sweden officially joins NATO
https://www.nato.int/en/news-and-events/articles/news/2024/03/07/sweden-officially-joins-nato
UNFCCC, United States of America
https://unfccc.int/node/61231
後継政権での扱い
The White House, Initial Rescissions of Harmful Executive Orders and Actions, January 20, 2025
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/initial-rescissions-of-harmful-executive-orders-and-actions/
U.S. Department of Education, Next Steps for Borrowers Enrolled in the SAVE Plan, March 27, 2026
https://www.ed.gov/about/news/press-release/us-department-of-education-announces-next-steps-borrowers-enrolled-unlawful-save-plan
U.S. Department of State, After Action Review on Afghanistan
https://2021-2025.state.gov/after-action-review-on-afghanistan/
U.S. Department of Veterans Affairs, VA to grant 1 millionth benefit claim under the PACT Act
https://news.va.gov/press-room/va-to-grant-1-millionth-benefit-claim-for-veterans-and-their-survivors-under-the-pact-act/
U.S. Department of Justice, More Than 500 Prosecutions Under Bipartisan Safer Communities Act
https://www.justice.gov/archives/opa/pr/justice-department-secures-more-500-prosecutions-under-new-firearms-statutes-enacted
U.S. Bureau of Labor Statistics, Employment Situation and Consumer Price Index archives
https://www.bls.gov/bls/news-release/empsit.htm
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U.S. Bureau of Economic Analysis, Gross Domestic Product
https://www.bea.gov/data/gdp/gross-domestic-product
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https://www.supremecourt.gov/docket/docketfiles/html/public/22-506.html
U.S. Senate Committee on the Judiciary, Biden judicial confirmations
https://www.judiciary.senate.gov/press/dem/releases/senate-judiciary-committee-announces-accomplishments-under-chair-durbin
U.S. Customs and Border Protection, June 2024 Monthly Update
https://www.cbp.gov/newsroom/national-media-release/cbp-releases-june-2024-monthly-update
Centers for Medicare & Medicaid Services, Medicare Drug Price Negotiation Program
https://www.cms.gov/inflation-reduction-act-and-medicare/medicare-drug-price-negotiation
National Archives, 2024 Electoral College Results
https://www.archives.gov/electoral-college/2024

