日暮里・舎人ライナー完全ガイド|全13駅の歴史・開発・観光を途中下車でたどる

荒川付近の高架を走る日暮里・舎人ライナー320形電車

日暮里駅を出た列車は、ビルの間を抜け、尾久橋通りの上を北へ進みます。やがて視界が開け、荒川を高い橋で越え、住宅地の向こうに舎人公園の緑が現れます。終点は、かつて農業用水だった水路の名を残す見沼代親水公園です。

日暮里・舎人ライナーは2008年3月30日に開業し、日暮里駅から見沼代親水公園駅まで9.7km、13駅を約20分で結びます。沿線には、江戸の行楽地だった日暮里、赤山街道の宿場として栄えた舎人、古くから信仰を集める西新井大師、荒川の治水と都市インフラ、農地から住宅地へ変わった地域など、異なる時代の東京が重なっています。

車窓は、都心側の高密度な市街地から、荒川、住宅地、公園、旧農村地域へと変化します。途中下車すると、その変化を地上から確かめられます。

日暮里・舎人ライナーとは

日暮里・舎人ライナーは、荒川区の日暮里駅と足立区の見沼代親水公園駅を結ぶ新交通システムです。東京都交通局の2025年4月1日現在の資料では、営業距離9.7km、全線高架複線、13駅。側方案内軌条式の新交通システムで、コンピューター制御による自動運転を行っています。

現在の車両は300形、320形、330形で、最高速度は60km/h。全線の標準運転所要時間は約20分です。2025年度の一日平均乗車人員は約9万9千人でした。駅別の詳細が公表されている2024年度では、日暮里駅が27,809人、西日暮里駅が16,213人と都心側の利用が特に多くなっています。

路線は尾久橋通りを軸に北へ延びています。地下を走る地下鉄とは異なり、沿線の大部分を高架から見渡せることが特徴です。無人運転のため、先頭部から前方の景色を見ることもできます。

13駅は次の順です。

  • 日暮里
  • 西日暮里
  • 赤土小学校前
  • 熊野前
  • 足立小台
  • 扇大橋
  • 高野こうや
  • 江北
  • 西新井大師西
  • 谷在家やざいけ
  • 舎人公園
  • 舎人とねり
  • 見沼代親水公園みぬまだいしんすいこうえん

なぜ日暮里・舎人ライナーは造られたのか

東京23区の北東部には、鉄道駅から離れた地域が広がっていました。現在の日暮里・舎人ライナーのルートは、尾久橋通り沿いに日暮里から舎人方面へ北上し、その交通条件を改善する目的で整備されました。

1985年7月11日、運輸政策審議会の答申第7号で、日暮里・舎人線について輸送需要を考慮し「新交通システム等」を導入する方針が示されます。1995年に軌道事業の特許を取得し、1997年12月に工事が始まりました。

建設では、支柱、軌道桁、駅の主要構造物などのインフラ部分を、尾久橋通りの整備とあわせて東京都建設局が担当しました。車両や電気設備などは東京都地下鉄建設株式会社が担当し、2008年3月30日に開業しました。

開業後は、沿線で住宅開発や駅前整備が進み、江北では医療・商業機能の集積も進みました。

2007年に建設中だった日暮里・舎人ライナー日暮里駅
建設中の日暮里・舎人ライナー日暮里駅、2007年。撮影:Lover of Romance/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

日暮里―「ひぐらしの里」から再開発の玄関口へ

荒川区によると、日暮里地域は江戸時代に「ひぐらしの里」と呼ばれ、寺院や眺望、花、月、虫の声を楽しむ行楽地として人々を集めました。谷中寺町と連続する高台には寺社が集まり、現在も駅西側へ歩くとその地形と寺町の雰囲気が残っています。

日暮里駅東側では、日暮里・舎人ライナーの導入を契機として、3地区で連鎖的な市街地再開発が進められました。ステーションポートタワーは2007年5月、ステーションガーデンタワーは2008年2月、ステーションプラザタワーは2009年10月に竣工。3棟とライナー駅舎は3階部分のデッキでつながっています。

江戸の行楽地、繊維問屋街、鉄道結節点、21世紀の再開発地区が徒歩圏に並んでいます。

古地図で日暮里・谷中の土地を読むなら、根岸谷中辺絵図を徹底解説|谷中寺町・根岸・日暮里を古地図で読むが参考になります。現地の寺町や坂道を歩くコースは、谷中・千駄木・向丘の歴史散歩|日暮里駅から史跡・坂道・寺町を歩くで紹介しています。

西日暮里から熊野前―台地の歴史から尾久の低地へ

西日暮里駅周辺では、山手台地の縁に道灌山どうかんやまがあります。江戸時代には眺望のよい場所として知られ、薬草の採取や虫聴きに人々が訪れました。現在の西日暮里駅から短い距離で高低差を体感でき、ライナーの高架から見える平坦な東側との違いがよく分かります。

西日暮里を出ると、赤土小学校前、熊野前へ進みます。熊野前では東京さくらトラムと接続し、東尾久の住宅地が広がります。日暮里・舎人ライナー開業以前から生活圏が形成されていた地域に、新しい南北方向の交通軸が加わった区間です。

台地側を歩くなら、西日暮里~千駄木~本駒込の歴史散歩|諏方神社・狸坂・動坂遺跡・駒込名主屋敷を歩くが西日暮里からの散歩例になります。赤土小学校前・熊野前周辺の東尾久は、7つしかない町名の一つ「東尾久(ひがしおぐ)」を歩いてみよう!で現地の街並みを紹介しています。

足立小台・扇大橋―荒川を越える巨大インフラ

熊野前を過ぎると、ライナーは足立小台へ向かい、荒川を越えます。沿線の中でも景観が大きく変わる区間です。

荒川の河川空間、道路の扇大橋、首都高速道路、高架上の日暮里・舎人ライナーが立体的に重なります。地上から見上げると、河川を横断する複数の都市インフラが同じ場所に集中していることが分かります。

荒川は東京の治水史と深く結びついています。現在「荒川」と呼ばれる下流部には、20世紀前半に整備された荒川放水路の歴史があります。ライナーの車窓では短時間で通過する場所ですが、途中下車すると、河川・橋梁・道路・高架交通を一つの景観として観察できます。

荒川を渡る日暮里・舎人ライナーの橋梁と扇大橋
荒川を渡る日暮里・舎人ライナー橋梁と扇大橋。撮影:Ray Swi-hymn/Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)

荒川放水路の成立と岩淵水門の歴史は、荒川は人工の川だった?荒川放水路と岩淵水門で読む東京の治水史で詳しく紹介しています。

扇大橋・高野・江北―農道の町から住宅・医療・商業の沿線へ

足立区は扇一丁目について、かつての農道が生活道路となり、宅地化によって狭く曲がった道路が多く残る地域と説明しています。2008年の日暮里・舎人ライナー開通、コミュニティバス、都市計画道路の整備によって交通利便性が向上し、新しい住宅開発が進みました。

高野こうや駅を経て江北駅へ進むと、住宅だけでなく商業・医療機能の変化も見えます。江北駅周辺には商業施設や住宅団地が立ち並び、2018年にエリアデザイン計画が定められました。2022年1月には東京女子医科大学附属足立医療センターが開院し、「健康」をテーマにしたまちづくりが進められています。

足立区の沿線地区に関する資料では、2011年から2021年にかけて宅地、公園・運動場、道路・鉄道用地が増え、空地や農地が減少しました。建物用途でも独立住宅・集合住宅の床面積が増え、医療福祉施設や専用商業施設が増加しています。沿線の変化は住宅だけに限らず、生活に必要な都市機能の集積として進んできました。

2026年現在も、江北駅に近い扇三丁目では都市計画道路補助第138号線の整備にあわせた地区計画の策定が進んでいます。

足立区は日暮里・舎人ライナー沿線を特別景観形成地区に指定し、地上からの景観とライナーの車窓から見える景観の両方を意識した基準を設けています。

西新井大師西―古寺と新しい都市拠点を歩く

西新井大師西駅からは、沿線を代表する歴史スポットの西新井大師へ歩けます。正式名称は五智山遍照院總持寺ごちさんへんじょういんそうじじ。真言宗豊山派の寺院で、山門は足立区指定有形文化財です。

寺に伝わる縁起では、826年に空海がこの地を訪れ、疫病に苦しむ人々のために祈祷したことが創建の始まりとされています。現在も「西新井大師」の名で広く知られ、沿線では古い信仰の歴史を現地で感じられる場所です。

駅名は「西新井大師西」ですが、寺の公式案内では駅から徒歩約16分です。途中の街並みも含めて歩くことで、現代の高架鉄道と古寺の位置関係を確かめられます。

日暮里・舎人ライナー西新井大師西駅から歩ける西新井大師の山門
西新井大師山門。撮影:Tak1701d/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

江北・西新井大師西一帯では、新しい医療・住宅・商業拠点と古寺が近接しています。

西新井大師西駅からバスで鹿浜へ足を延ばすと、足立区都市農業公園の歴史と見どころ|五色桜・古民家・収穫祭を歩くで、足立の農業、江北五色桜、荒川の治水を一つの場所でたどれます。

谷在家・舎人―赤山街道の宿場と市場町の記憶

谷在家やざいけ駅から舎人とねり駅へ進むと、ライナー開業よりはるかに古い交通の歴史が現れます。

江戸時代の舎人は、赤山街道沿いの宿場として機能していました。明治期から昭和期には、毎年12月20日と26日に「ゴボウ市」が開かれ、ゴボウを中心に根菜、芋、日用品、正月用品などが売られました。川口、川越、鳩ヶ谷、草加方面から農家が野菜を持ち込み、地域の人々が集まる年末の市でした。

1968年の赤山道の道路拡張によって会場となった農家の庭先が狭くなり、ゴボウ市は姿を消していきました。現在の住宅地を歩いているだけでは分かりにくい市場町の記憶です。

舎人氷川神社は、1200年に大宮の氷川神社から勧請かんじょうしたと伝えられています。現在の本殿は1836年の建築で、龍、唐獅子、神話場面などの彫刻が施され、足立区登録有形文化財になっています。宿場と市場で栄えた地域の歴史を、建築として残す場所です。

舎人公園・見沼代親水公園―終点に残る緑と農業用水

舎人公園駅は、大規模な都立公園に直結しています。足立区は舎人公園を区内最大の公園として紹介しており、高架の駅を降りると広い空と緑地が広がります。

終点の見沼代親水公園みぬまだいしんすいこうえんは、駅名だけでは由来が分かりにくい場所です。公園は、かつての農業用水路を再整備した全長約1.7kmの親水公園です。現在の住宅地の中に、水田や農地を支えた水路の記憶が残っています。

見沼代親水公園の水路と遊歩道
見沼代親水公園。撮影:Doricono/Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

日暮里から約20分で到着する終点に、旧農業用水が残っています。都心側では駅前再開発、途中では荒川と高架インフラ、北側では旧街道、宿場、公園、農業用水へと、短い路線の中で土地の履歴が大きく変わります。

全13駅を歴史・開発・観光で見る

歴史・土地の背景開発・都市の見どころ途中下車のポイント
日暮里江戸の「ひぐらしの里」、谷中寺町と連続日暮里・舎人ライナー導入を契機とした駅前3地区再開発駅前再開発、谷中・寺町、繊維街方面
西日暮里道灌山どうかんやま、山手台地の縁JR・東京メトロ・ライナーの結節点高低差、道灌山、西日暮里の歴史散歩
赤土小学校前東尾久の住宅地既成市街地に加わった新駅東尾久の地域散歩
熊野前東尾久の生活圏東京さくらトラムとの乗換地点都電との接続、東尾久周辺
足立小台荒川沿い河川・道路・高架交通が交差荒川と巨大インフラ景観
扇大橋農道から宅地化した扇地区住宅開発と道路整備荒川橋梁、扇地区の街路
高野こうや扇地区の地域史住宅地としての沿線形成日常の住宅地を観察
江北江北地域の生活圏商業、住宅団地、医療拠点、エリアデザイン東京女子医科大学附属足立医療センター周辺
西新井大師西西新井大師の門前文化江北・西新井方面の都市機能と接続西新井大師
谷在家やざいけ旧来の地域集落住宅地化した沿線舎人地区へ向かう街の変化
舎人公園舎人とねり地域の歴史大規模公園と高架駅舎人公園
舎人赤山街道、宿場、市場町住宅地と新交通舎人氷川神社、旧街道、ゴボウ市の歴史
見沼代親水公園みぬまだいしんすいこうえん旧農業用水終点駅周辺の住宅地約1.7kmの親水公園

700円の都営まるごときっぷで途中下車する

日暮里・舎人ライナーを複数回乗り降りするなら、都営まるごときっぷが使いやすいです。

2026年9月現在、大人700円。都営地下鉄、都営バス、東京さくらトラム、日暮里・舎人ライナーを1日に何度でも利用できます。

日暮里―見沼代親水公園は営業距離9.7kmで、普通運賃はICカード利用時335円です。全線を往復すると670円。そこに短区間の乗車を1回加えるだけでも通常運賃の合計は700円を超えるため、途中下車を繰り返す沿線散歩と相性がよい乗車券です。

東京都交通局は、都営まるごときっぷの磁気券の前売販売を2026年9月30日で終了すると案内しています。当日売りの磁気券は当面継続され、PASMOへの当日発売もあります。

歴史を軸にした全線満喫モデルコース

歴史・都市開発・景観を一日で見るなら、最初に日暮里から終点まで全線を乗り通し、その後、途中下車しながら戻る流れが分かりやすいです。

1 日暮里から見沼代親水公園まで全線乗車

日暮里駅から見沼代親水公園みぬまだいしんすいこうえん駅まで約20分。前方が見える位置から、日暮里の高密度市街地、荒川、扇・江北の住宅地、舎人方面の緑へ変化する景色を確認できます。

2 見沼代親水公園と舎人宿を歩く

終点で降り、旧農業用水を整備した見沼代親水公園を歩きます。その後、舎人とねりの旧街道側へ移動し、赤山街道の宿場、市場町、ゴボウ市の歴史、舎人氷川神社をたどります。

3 舎人公園で緑の規模を体感する

再びライナーに乗り、舎人公園駅で途中下車します。大規模な都立公園と高架鉄道が隣接する現在の沿線景観を見ます。

4 西新井大師西から西新井大師へ

西新井大師西駅で降り、徒歩約16分の西新井大師へ向かいます。古寺と、江北・西新井周辺の現代の都市機能を同じ区間で見比べられます。

5 足立小台で荒川を見る

足立小台駅周辺では、荒川、扇大橋、首都高速、ライナー高架が重なる景観を確認します。時間に余裕があれば河川敷側から橋梁を見ます。

6 日暮里へ戻り、駅前再開発と寺町を見る

最後は日暮里へ戻り、ライナー駅と3棟の再開発ビルを結ぶデッキを確認します。余力があれば駅西側へ移動し、谷中寺町や「ひぐらしの里」の歴史につなげます。

日暮里・舎人ライナーで見える東京の時間

2008年開業の日暮里・舎人ライナーは、江戸の行楽地だった日暮里、近代治水の荒川、住宅・医療・商業機能が集まる扇・江北、古寺の西新井、旧街道の宿場と市場町だった舎人、旧農業用水の見沼代親水公園を約20分で結びます。

途中下車して地上を歩くと、新しい交通基盤の周囲に、古い道、水路、寺社、土地利用の痕跡が残っていることを確かめられます。

参考資料

  1. 東京都交通局「日暮里・舎人ライナー」
  2. 東京都交通局「交通局のあゆみ 日暮里・舎人ライナー」
  3. 東京都交通局「日暮里・舎人ライナー 普通運賃」
  4. 東京都交通局「都営まるごときっぷ」
  5. 東京都交通局「日暮里・舎人ライナー 各駅情報」
  6. 荒川区「地区別再開発事業概要 日暮里駅前地区」
  7. 荒川区「史跡・文化財」
  8. 荒川区「道灌山」
  9. 足立区「扇一丁目周辺地区のまちづくり」
  10. 足立区「江北のまちづくり」
  11. 足立区「日暮里・舎人ライナー沿線地区のまちづくり関連資料」
  12. 足立区「日暮里・舎人ライナー沿線地区 特別景観形成地区」
  13. 足立区「補138扇三丁目地区のまちづくり」
  14. 足立区立郷土博物館「ゴボウ市」
  15. 足立区「舎人氷川神社本殿」
  16. 足立区「足立まちの風景資産を歩こう!」
  17. 足立区「總持寺山門」
  18. 西新井大師 公式サイト「交通アクセス」